台所に立つ背中を、
ただ眺めていた頃がありました。
「ちょっと味見してごらん」と
差し出された小皿のあの味。
分量は「このくらい」、
火加減は「いい匂いがしてきたら」。
書き留めておけばよかったと、
気づいたのはずいぶん後のことでした。
おばあちゃんのレシピには、
グラムも、分数も、タイマーもありません。
「ひとつまみ」がどれくらいかは、
その手の大きさで変わる。
「ちょうどいい」の基準は、
何十年もの食卓の中で作られたもの。
だからこそ、同じ料理でも
家ごとに味が違う。
それが「おばあちゃんの味」です。
このサイトについて
このサイトは、
誰かの台所に確かにあった味を
ひとつずつ集めていく場所です。
レシピとして正確かどうかより、
「あの味を残したい」という気持ちを
大切にしています。
だから材料欄には、
「ぐるっと3周」とか「ごろっと5つ」とか、
おばあちゃんの言葉がそのまま残っています。
横に目安のグラム数を添えているのは、
はじめて作る人が迷わないように。
でも本当は、
自分の「このくらい」があっていいと
思っています。
忘れられない味のこと
なかには、もう再現できない味もあります。
おばあちゃんはもういない。
レシピは聞けなかった。
写真も残っていない。
でも、あの味だけは覚えている。
冬の台所の匂いとか、
小さな茶碗に盛られた煮物の色とか、
「おかわりは?」と聞かれた声とか。
そういう記憶を、
手がかりだけでも残しておける場所にしたい。